「良いKPIと悪いKPI」(第一回)

みなさま、こんにちは。ペンネーム hijk です。

 

筆者は、この10年来、「BPMで日本を元気に!」を合言葉に、BPMを本気で実践し続けてきました。全社規模の新システム導入プロジェクトや、事業部でのプロセス標準化活動など、様々な切り口でBPMの普及展開に携わってきました。これまでの経験から思うことは、設計・承認された標準業務プロセスが、組織の実態に合うように更新・改善され続けるには、適切なKPIの設計・運用が欠かせない、ということです。しかし、これはなかなか難しいことだと思います。読者の皆様にも、「KPIの数値は良くなったのに、業績向上につながらない」「KPIが悪化したが、どう改善したら良いのか分からない」といった経験はありませんでしょうか。

 

先ず、これからKPIの話を進める前に、KGIKPIの定義を振り返っておきます。

  • KGIKey Goal Indicator 重要目標達成指標)…組織が最終的に達成すべき目標を管理するための、定量的な計測基準。結果指標。
  • KPIKey Performance Indicator 重要業績評価指標)…組織の最終目標を達成するための過程(プロセス)の状況を管理するための、定量的な計測基準。先行指標。

 

このあと、KPIについて「こんなことってあるよね?」「あるある!」という話を色々とさせて頂きますが、その前に一点、KPIのような「定量情報」だけでなく、やはり「定性情報」も大事です、ということに、念のため触れておこうと思います。定量情報と定性情報には、それぞれの良さがあり、組み合わせて使うことが重要です。

 

(図 1 定量評価と定性評価)

図1

 

 定量値は、誰にとっても同じに読める数値なので、明確です。そのため、組織のメンバー全員の現状認識を統一したり、具体的に分析・管理したりするのに向いています。しかしながら、定量値でビジネスの全てを表せるわけではありません。定量評価の結果、問題や課題が見つかった際に、その真因分析や改善策の検討を行うには、背景にある組織の慣習や関係者の心理を読み解いていく必要もあります。たとえば「週報の記載内容」や「顧客や従業員の生の声」など、様々な定性情報を活用し、定量情報と組み合わせて、分析を進めていく必要があります。KPIだけでは十分な管理や改善活動の推進は難しい、ということを、頭の片隅に置きながら、以下をお読み頂ければと思います。

 

1. KPIで先手を打つ

さて、話を定量評価に戻します。企業が定量評価に使う指標には、最終目標を表すKGIと、業務プロセスを評価するKPIがありました。KGIは、既に確定してしまった結果指標です。どんなに眺めても値は変わりません。KGIは巨大で複雑な企業活動の一部分、いわば「氷山の一角」です。ですから、KGIに一喜一憂するのでなく、結果を生み出す業務プロセスのパフォーマンスを、適切に設計されたKPIを用いてリアルタイムに管理し、BPMの手法を駆使して、先手を打って改善していくべきです。

(図 2 結果指標と先行指標)

図2png

そうはいっても、現実のビジネスは非常に複雑で、KGIKPIの関係も簡単ではありません。日々「生きて変化する業務プロセス」を測定するKPIの設計・運用も、一筋縄では行きません。これから述べるKPIの設計や運用についてのノウハウも、現実のBPM活動にそのまま当てはまるとは限りません。しかし、無手勝流・我流で検討を進めると、検討範囲が狭くなったり偏ったりするリスクもあります。一般的な「セオリー」を理解しておいても損はない、というくらいのお気持ちで、以下をお読み頂ければと思います。

2. 良いKPI、悪いKPI

業務プロセスを評価するKPIについて、「良いKPI」とは何かを列挙してみました。同じことの裏返しですが、「悪いKPI」についても付記しました。その方が「良いKPI」の意味が、より伝わるかと思います。

(表 1 良いKPIの10箇条)

#

良いKPI

悪いKPI

1

戦略と整合している

何のために計測しているのかを見失う、短期的・その場しのぎで計測をやめてしまう

2

業績と連動している

改善しても業績が良くならない

3

具体的、定義がシンプル

抽象的、定義が複雑・難解、一部の人しか関心を持っていない

4

視点のバランスが良い、多角的、網羅的

視点が偏っている、部分的・一面的、本末転倒な改善活動を誘発する

5

責任の所在が明確

責任の所在が不明確、悪化した時に誰も具体的な改善活動を立ち上げない

6

努力により目標を達成できる

制御不可能な要因が含まれている、目標値の達成見込みがない

7

測定可能、自動的に測定できる

計測不可能、計測に非常に手間がかかる

8

目標値が明確で、目標達成までの期限がある

だらだら測り続けている

9

測定対象の焦点が絞られている

測るだけで疲れる、分析だけに明け暮れる、本業に専念できない、改善に繋がらない

10

測定結果が改善活動に直結する

測定しっぱなし、結果に一喜一憂

1. 戦略と整合している:

組織がどこへ向かっているのか、組織は何のために存在しているのか、そのために私たちは日々何をしているのか。企業の戦略と、日々の業務プロセスは、時に遠く離れているように感じられるかも知れませんが、決してそんなことはありません。戦略と日常業務を「一筆書き」で結べないなら、何かを見落としているか、日々の忙しさに流されて狭い考えに陥っているのかも知れません。KPIを測定・分析し、改善し続けるには、大変な苦労が伴います。それなのに、日常の業務プロセスのKPIが経営戦略と結びついていないとしたら、その努力は組織としては的外れで無駄になってしまうかも知れません。KPIを改善することが、組織の戦略目標と整合していることが、「良いKPI」の第一条件です。

2. 業績と連動している:

KPIの改善により、組織としての業績評価、ひいてはKGIが改善することが、KPIを測定するそもそもの理由です。KPIを改善したのに業績が上がらないとしたら、そのKPIは「測定のための測定」に過ぎず、自己満足に陥っているかも知れません。また、KPIで測定している範囲が一面的過ぎて、業績への影響が小さ過ぎるのかも知れません。せっかくKPIを改善しても、それが業績に表れないとしたら、改善活動に携わったメンバーのモチベーションも低下してしまいます。KPIを改善が、どう業績に影響するかの因果関係が、論理的・定量的・具体的であるなら、それは「良いKPI」です。

3. 具体的、定義がシンプル:

業務プロセスの実行には多くの人が関わります。ですから、KPIの改善には、多くの人の協力が欠かせません。一般的でない用語や、複雑な計算式でKPIが設計されていると、多くの人がそれを見て分析・判断したり、改善活動を企画・推進したりすることが、難しくなります。凝ったKPIよりも、的を射た、びっくりするほどシンプルなKPIの方が、うまく機能します。

4. 視点のバランスが良い、多角的、網羅的:

偏ったKPI設計は、改善活動を誤った方向に導いてしまうリスクがあります。リードタイム短縮だけをKPIとすると、コスト増に気付かないかも知れません。残業時間短縮だけをKPIとすると、品質や従業員満足度が低下してしまうかも知れません。トレードオフ関係にある複数のKPIを設計するのがセオリーです。以下のような検証済みのフレームワークを活用して、偏りが無いかをチェックすると、網羅性を担保しやすくなります。
・「顧客・財務・プロセス・人材育成」(BSC バランススコアカード)
・「品質・コスト・リードタイム」(QCD)
・「顧客の声・経営者の声・従業員の声」(VoC、VoB、VoE)

5. 責任の所在が明確:

KPIが悪くなっても「へー、それで?」「もっと気合いを入れなくちゃいけないね~」と思うだけで、誰も具体的な改善活動を起動しなければ、せっかくKPIを管理している意味がありません。しかし、KPIを改善する必要性が明らかになっても、みんなが「それは私の責任ではない」と考え、放置されることが少なくなりません。KPIの数字と、そのKPIの対象となっている業務プロセスの実行に、責任を持っている人(プロセス・オーナー)が明確に定義されていることは、KPIを実効的に運用するための前提条件です。

6. 努力により目標を達成できる:

環境に大きく左右されるKPIを設計してしまうと、KPIの成果が、プロセス改善努力の成果なのか、外部要因に依るものなのか、分からなくなってしまいます。また、とんでもない幸運の連続でも起きない限り達成できないような高い目標では、地道な努力を続けるモチベーションも湧いてきません。地道な工夫や努力の積み重ねによって着実に改善され、目標に向かって前進しているという実感を持つことができるのが「良いKPI」です。

7. 測定可能、自動的に測定できる:

膨大な手作業を介さないと測定できないようなKPIでは、管理が長続きしません。KPIの元となるデータが業務システムから自動的に採取できるなど、測定の労力が少ない方が、「良いKPI」だと言えます。

8. 目標値が明確で、目標達成までの期限がある:

目標値の無いKPIを測定しても、ただ測られるだけで、改善に結びつきません。KPIに目標値があっても、期限がないと、改善活動のスピードが鈍ります。市場や競合相手の分析などを通した合理的な裏付けを持って、「いつまでに、この目標値を達成しなければならない」と示されているのが「良いKPI」です。

9. 測定対象の焦点が絞られている:

測定対象が広過ぎると、測定が大変だったり、分析結果と原因の結びつけが難しくなったりするかも知れません。問題箇所を素早く特定し改善できるよう、そのための労力が必要最小限になるよう、測定範囲が適切に定義できるのが「良いKPI」です。自動的にデータ収集・分析できない場合は、大枠では全体を捉えておき、詳細を分析する範囲は課題の大きい部分に絞り、解決したら次の深掘り箇所を探す、といった運用上の工夫も考えられます。

10. 測定結果が改善活動に直結する:

KPIを測定し、改善の必要性が明確になり、責任者も決まっているのに、どう改善したら良いか分からない。さて、どうしよう…。こんな状況にならないよう、KPIが管理限界を超えた際にどのようなアクションを取るかを事前に取り決めておいてあるのが「良いKPI」です。例えば、「中央値が一定値より悪くなったら、どの工程に原因があるのか内訳を分析する」「バラツキが一定値より大きくなったら、チェック工程の項目を見直す」などを予め考えておくと、速やかに改善アクションを立ち上げることができます。

 

いかがでしょうか。今回は「良いKPI」とはどのようなものであるかを、取り敢えず列挙してみました。次回は「では、どうやったら良いKPIを設計・運用できるのか」、その手順について考えてみます。

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