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パン屋のレジから考える機械学習の性質

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この新型レジ、「機械学習を使って開発しました」とは一言も書かれていませんが、記事中で「修正結果がデータベースに反映されていき、識別精度がどんどん向上」と書かれている点など、私の目には、機械学習を使っている、もしくは同じ考え方で作られているようにしか見えませんでした。
そこで以下では、もしこのレジが機械学習の技術を使って作られていたとしたら、という仮定のもとで、機械学習の性質について考えてみます。


このレジは、内部的には、カメラに映ったトレーの画像を読み込んで、トレーに乗っているパンがどの種類のものであるかを”予測”しているはずです。
過去に学習した、様々なパンの画像の中から、類似度が最も高いものを計算し、予測結果として出力。個々のパンの種類がわかれば、合計金額はすぐに計算できます。

ただ、機械学習で正解率100%の予測をさせることは不可能です。予測が外れることもあります。なので、そのことを前提として、以下のような使い方をしている例を良く見かけます。

  • 機械の予測が良く当たる部分では、その予測を使う。そうでない部分は、予測を鵜呑みにせず、人間が判断したり、訂正したりする。
  • 機械の予測をそのまま使うかは、最終的には人間がチェックするが、機械の予測があまり当たらない部分を優先的にチェックするようにする。機械が「問題なし」と予測していて、かつ予測が良く当たっている部分については、放置しても問題が起きる可能性は少ないので、人間のチェックは後回しにする。

この場合、人間の判断やチェックの労力を機械が肩代わりしてくれるものの、100%の肩代わりにはなりません。しかし、6~7割肩代わりしてくれるだけでも十分な工数削減になる、というケースはたくさんありそうです。

このレジの場合は、システム上でうまく予測できなかった(予測に自信がない)パンについては、画面上に黄色枠で囲まれて表示されるようになっています。本当に予測が誤っている場合、該当部分をタッチすると次善の候補が表示され、誤りを訂正することができます。前述の「修正結果が反映されていく」とはこのような訂正のことを指しています。
店員は、黄色枠が表示された時だけ、訂正が必要かどうかを注視すれば良いわけで、まさに上で書いた通りの使い方をしていると言えます。


このレジがあると、パン屋にはどのような効果があるのでしょうか。
店員のレジ打ちの負荷が減り、会計が早くなることは想像できますが、それ以外で「アルバイト店員が、パンの種類を覚えなくてもレジ業務を担当できる」という利点があるのだそうです。教育工数の削減です。

この仕組みだと、仮にアルバイト店員が交代することになっても、学習結果は機械側に残っているので、店員を雇うたびに都度教育する必要は無くなりますね。
人間がやると労力がかかる作業を、文句も言わずに、何度でも繰り返し実行してくれるのは、機械学習に限らず、機械化の利点の1つです。


このような便利な仕組みがあると、パン屋以外のレジにも使えるのでは? ということを考えたくなります。
しかし、他の店のレジの様子を考えてみると、それぞれパン屋とは特性が違うところがあります。新型レジを適用しようとしても、上手く適用できない、またはパン屋ほどの効果は出ないと考えられます。

コンビニ、書店 ほぼ全ての商品にバーコードが付いており、1回の会計で購入される商品の数も少ないことから、そもそもレジ打ちの負荷がパン屋より少ない。効果が薄そう。
スーパーマーケット 特売日では籠いっぱいに商品を入れる買い物客をよく見かける。この場合、平面を写すカメラだけでは、籠の中の全ての商品を一度に認識させるのは難しそう。
100円ショップ 全商品の単価が同じなので、商品の種類を識別できなくても、数を数えられれば会計できる。
衣料品店 パンよりも大きな商品を売っていることが多いので、カメラの視野におさまるように複数の商品を乗せたり、識別させたりすることが難しそう。

目的と手段を取り違えるな、という言葉を耳にすることがありますが、「新型レジ」という手段だけに着目して、それに合うような目的を探そうとすると、このようなことになってしまいます。
無理を承知で、この新型レジを上手く適用できるお店を考えるなら、商品にバーコードを付けられない、八百屋や魚屋あたりが該当するでしょうか。


というわけで、新型レジの話題を取り上げつつ、機械学習の適性について、いくつか触れてみました。
今後も機械学習の適用例が色々と登場すると思いますが、上で書いたような性質を上手く生かしたり、乗りこなしたりしているはずです。その観点で見てみると、もっと面白く見ることができるかもしれません。

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