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「良いKPIと悪いKPI」(第三回)

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みなさま、こんにちは。ペンネーム hijk です。

これまでの連載で、「良いKPI」の条件や、「良いKPI」を設計・運用するためのレシピを見てきました。そして、KPIの設計・測定・改善のためには、KPIに対応する標準プロセスが具体的に描かれていることが大切だ、ということにも触れてきました。KPIの考察についての最後に、KPIと標準プロセスの結びつきについても述べさせて頂こうと思います。

4. 標準プロセスを具体的に描いておくことの重要性

KPIを測定・分析した結果、具体的な改善アクションに結び付けられるようにするには、KPIと標準業務プロセスとが結びついていることが極めて重要です。具体的なプロセスと紐づいていないと、折角KPIを測っても、具体的に何を改善して良いのか分からず、気合いで乗り切るなど、一過性の対策に終わってしまいがちです。

標準業務プロセスが無ければ、KPIの「定義」も明確でないと言えます。例えばKPIとして「受注から納品までのリードタイム(日数)」を選択したとしても、標準業務プロセスが無いならば、その「受注」や「納品」のタイミングの解釈は部署や人によってまちまちで、具体的には定義されていないことになります。標準業務プロセスが無いのにKPIを測定するということは、定規が無いのに長さを計るのと同じです。また、逆に、KPIを測定・管理するのでなければ、標準業務プロセスの設計の良し悪しを検証したり、より良い標準プロセスに向けて改善したりすることもできません。実は、標準プロセスとKPIは、車の両輪なのです。

標準業務プロセスを共通の記法(コンベンション)で記述し、関係者が誤解なく標準業務プロセスの定義を理解できるようにしておくことも重要です。ARISなどのツールで統一的にフローチャートを描き、KPIがどこに関係しているのかを明確に紐づけることが重要です(図 3 スイムレーンフローチャートとKPI)。適切なプロセスモデリングによって、正しいKPIの分析や改善が可能となるのです。

(図 3 スイムレーンフローチャートとKPI)

例えば、品質・コスト・リードタイム(QCD)に関するKPIに改善の必要が生じたとき、正しいコンベンションで描かれた標準業務プロセスがあれば、そのチャートを指さし確認しながら、具体的にどこをどう修正・改善すれば良いか、みんなで知恵を出し合い検討することが出来るようになります。

(表 4 KPIとプロセスの結び付け)

KPIのカテゴリ

プロセスとの繋がり

改善策(例)

Q:品質(プロセス効率性)

  • 欠陥が明らかになる検査・承認プロセス
  • 後戻り箇所
  • チェックリストの改善
  • フロントローディング(チェック処理を先に済ませる)

C:コスト(費用有効性)

  • 工数が発生する作業・処理が漏れなくチャートに示されている
  • 標準化による応受援
  • 平準化によるピーク時工数削減

D:リードタイム(サイクルタイム)

  • リードタイム測定の開始・終了点が明確に定義されている
  • 待ち時間の短縮
  • 外段取り化(事前準備)による実質的な作業開始の早期化
  • 小ロット化

問題について、プロセスを見て「ここが問題だ」と「指さし確認」できるようにしましょう。そのためにも、プロセスが正しい表記法(コンベンション)でモデリングされていることが非常に重要となります。モデリングがいい加減だと、何を測っているのか、どの品質保証プロセスに問題があるのか、などを具体的に検討することができず、また、改善策を盛り込んで標準業務プロセスを改訂することもできなくなります。もし標準業務プロセスを改善できないと、犯人捜しを始めたり、気合いや根性で一時的にKPIを良くするしか無くなり、効果も一過性のものとなります。それはBPMの精神からもっとも離れたやり方です。

みんなでKPIの設計・運用に魂を込めて行くには、統一コンベンションによる、
適切な業務プロセスのモデリングが欠かせません。本ブログのモデリング講座も是非、ご参照ください。

標準業務プロセスを記述する上でのポイント

最後に、標準業務プロセスの記述に良く使われるスイムレーン・フローチャート(図 4 スイムレーン・フローチャート)について、KPIの結び付けという観点での「べし・べからず」を幾つか挙げさせて頂きます。

(図 4 スイムレーン・フローチャート)
 

フロー図は、描かないよりは、描いた方が良い

2ステップしか無い単純なプロセスなら、わざわざフロー図を書く必要は無いのでは、と思われるかも知れませんが、「単純である」ということも、業務分析や改善策検討において大切な情報になります。複雑なプロセスは勿論フロー図を描いて、全容をKPIの測定・分析・改善に関係する全員で共有すべきです。KPIの対象プロセスには、必ずフロー図を描きましょう。

記法を統一し、装飾は避ける

自由な描画ツールでフロー図を描くと、つい、フォントや色や線の太さなどに工夫を凝らして綺麗に見せたくなってしまうかも知れません。しかし、それらの装飾の正確な意味は他の人には伝わらないことが殆どですし、却って業務の流れの本筋が見えづらくなってしまうこともあります。また、装飾の多いフロー図はメンテナンスも難しくなり、更新されなくなりがちです。フロー図は統一的な記法に従い、記法には無い装飾は付けず、シンプルに描きましょう。

条件分岐(菱形)に作業を書かない

例えば、条件分岐(菱形)に『明細を集計し、ガイドラインの上限を超えているかなどを確認、200万円以上か?』と、条件以外の作業を書いてはいけません。工数が発生する、すなわちコスト系のKPIやリードタイム系のKPIと関係し得る業務は、作業(四角形)として明記し、条件分岐(菱形)には条件文だけを記載しましょう。上記の例であれば、作業「明細集計」→作業「内容チェック」→条件分岐「200万円以上?」のように分けて描きましょう。

作業(四角形)の間を両方向矢印で繋がない

複数の部署の間で行われる交渉や調整は、つい、異なるスイムレーンにある作業(四角形)の間を両方向矢印で結ぶことで表現したくなってしまいます。しかし、このように表現すると、具体的にはどういう順番でどんな業務が行われているのか、どういう場合に交渉や調整が長引くのか、といったことが表現できず、作業品質(やり直し率)に関するKPIや、コストやリードタイムに関するKPIの具体的な分析につなげづらくなります。それぞれの部署の作業を明記の上、どのような条件で差戻しや再調整が行われるのか等を具体的に描くようにしましょう。

複数のスイムレーンにまたがる作業(四角形)を書かない

複数の部署が協力して行う会議や共同作業は、つい、異なるスイムレーンに跨る大きな作業(四角形)で表現したくなってしまいます。しかし、このように表現すると、それぞれの部署の役割や作業内容が分からなくなってしまいます。面倒でも、役割分担を明確化し、それぞれの部署にどのような作業があるのかを明記するようにしましょう。そうしないと、KPIの改善において部署毎に何をすべきか等の検討もしづらくなります。

主な後戻りは条件分岐(菱形)を用いて明記する

よく発生する差戻しや後戻りは、条件分岐(菱形)を用いて明記しましょう。低品質による後戻りの発生、後戻りにより発生する追加コスト、後戻りによるリードタイムの平均やバラツキの悪化など、後戻りは様々なKPIと関係し得るので、主要な後戻りの経路は、フロー図に明記しましょう。

さいごに

以上、見てきたように、KPIの設計・運用は、確かに大変です。KPIの測定・分析・改善は、いつまでも続く地味で苦労の多い活動です。でも、だからこそ、組織を継続的に改善し、筋肉質にすることができます。そして、簡単には真似のできない組織的活動だからこそ、競合と差をつけることができます。KPI運用による標準業務プロセスの継続的改善こそがBPMの本質です。今回書かせて頂いたKPI設計・運用のセオリーを参考に、少しでも業務プロセス改善に役立てて頂ければ幸いです。「良いKPI」の地道な設計・測定・分析を通して、組織に粘り強くBPMを定着させていきましょう。BPMで日本を元気にしましょう!

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