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トヨタ生産方式から考えるタイム・マネジメント残業がつらくなるその前に。

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今回は忙しいから抜け出せないIT現場に救いの手を差し伸べるべく、トヨタ生産方式から時間管理術を取り上げたいと思う。

 

1.忙しいから抜けられないIT現場
 恒常的に忙しいと言われるIT現場。「納期厳守」を突き付けられ、しばしば深夜残業を余儀なくされる。新規開発の設計書を書きながら、既存システムの改修事項の検討を進めるといった具合に複数の業務を掛け持ちすることも少なくない。また、社会要請による残業時間の上限値の設定に伴い、業務の効率化や省力化に取り組まなければ、業務不履行、システムの品質低下による信頼低下だけでなく、過重労働による健康障害、ワークライフバランスの崩壊といった負のスパイラルに陥りかねない。

 

 トヨタ生産方式やリーン生産方式によると、我々が仕事と呼ぶ活動には、「働き」「動き」の二つの要素があるそうだ。文字面は人偏が付くかどうかの違いしかないが、両者には大きな違いがある。「働き」とは、仕事のうち、システムの利用者にとっての価値に直結する要素を指す。一方、「動き」 とは、利用者のための価値をもたらさない要素を指す。ただ、動いているだけ。端的に言えばムダである。

 

 両者を区別するために、いくつか例を挙げよう。あなたは担当するタスクが完了したと判断したため、レビューを依頼する。レビュー担当者がOKを出したら、これは基本的に「働き」といえる。
 一方、勘違いや確認不足などにより深刻な不具合を作りこんでしまい、レビュー担当者から再レビューを求められた場合はどうだろうか。あなたは一生懸命に働いたかもしれない。しかし残念ながら、不具合を作りこんで作り直しになったのだから、その仕事は利用者に何も価値をもたらしていない。つまり、その仕事は「動き」に過ぎない。
 また、担当システムに不具合密度の目標値が決まっており、あなたが仕上げた成果物がその目標値の10分の1未満に不具合密度が収まっていたとする。非常に高品質であなたのやりがいは大きいかもしれない。しかし、あなた以外のメンバーはその水準を期待していない。目標値より大幅に高品質にするために要した時間分の仕事は必要なかったわけで、これも「動き」にあたる。(高品質でありたいのであれば、その分を見越して目標や見積もりに含めるべきだ)

 

 このように考えると、一生懸命仕事をしているつもりでも、実際にはかなり多くの「動き」、ムダをしているのではないか。あるコンサルティングによる調査では、設計や実装、提案といった「働き」に割り当てられる時間は、全体業務時間の30%に過ぎないというITエンジニアがほとんどだそうだ。従って早く仕事を終わらせるには、この「動き」の存在に気づき、それを徹底的になくし、「働き」にかける時間を増やす必要がある。

 

2.ムダな動きを増やす原因
 では、IT現場でムダな「動き」を増やす原因は何だろうか。主に以下の四つにあるそうだ。
 ①目的が曖昧
 ②マルチタスク
 ③突発業務
 ④孤立状態

 

 ①の目的が曖昧という状況では、せっかく仕事に取り組んでも、思い込みや先入観によってピントが外れたアウトプットを出しやすくなる。ピントが外れたアウトプットは、手戻りの原因となり、ムダを生み出す。当たり前のように聞こえるかもしれない。しかしながら、IT現場ではしばしばこうした状況が見られる。

 

 ②のマルチタスクも、「動き」を確実に増やす。多くのタスクを切り替えながら仕事を進めるには、そのたびに頭の中を切り替える必要がある。いったん忘れた内容を思い出すには時間がかかる。一つのタスクに集中して進めるよりも多くの時間が掛かる。この頭の切り替え作業も「動き」であり、それに要する時間も馬鹿にならない。しかしながら、IT現場ではマルチタスクを回避することは難しい。火の付いたところから手を付けたくなるが、同時に抱えるタスクはなるべく二つまでに抑えたい。三つ以上同時に仕事を進めると、頭の切り替え時間が大幅に増えることが学術機関の研究でも分かっているからだ。

 

 ③の突発業務も、多くのITエンジニアを悩ませる大きな種であろう。早く帰れるようにスケジュールを組んでも、それを妨げるように舞い込んでくる。突発業務で厄介なのが、自分個人の努力だけでは解決しきれないことだ。自分のミスによる緊急業務はともかく、同僚やユーザからの急な依頼に伴う突発業務はどうしようもない。突発業務を吸収するには、突発に対応できる余裕を作ることだ。

 

④の孤立状態は、自分が困ったときに、誰も相談できる相手がいない状態を指す。ITエンジニアは画面に向かって進めることが多く、自分がやっている作業はまわりから見えにくい。こうした職場では、個人商店化が進み、コミュニケーションが失われる。周りの同僚が何に悩んでいるのか、誰しもが分からない壁ができてしまう。先輩や同僚の支援を受ければすぐに解決できた仕事を、自力で解決するために膨大な時間をかければ、その時間は「動き」だ。思いやりや空気を読むことは大切であるが、過度な気遣いはムダを生む

 

3.ムダを生み出す四大原因への対策
 これら、ムダを生み出す四大原因への対策を講じる。以下のステップを踏むことがお勧めされている。
 ①ODSC(目的・成果物・成功基準)を決める
 ②目的達成に必要な行動を洗い出す
 ③タスクを俯瞰しやすくする
 ④見通しと対処すべき問題を毎日報告する

 

 ①のODSCを決めるというのは、目的が曖昧という阻害要素を解消する。アウトプットを明確にしてから仕事を始めることで、余計な「動き」を減らし、価値ある「働き」を増やせる。ODSCを考慮する際は、ユーザの視点だけでなく、自分やチームの視点も入れるべきだ。ECサイトのようなシステム構築の場合、ユーザの視点では「マニュアルがなくても直観的で操作できるサイト」などになるが、一方、自分やチームの視点では「なるべく●時間以内に完了する」といった内容になる。

 

 ②の目的達成に必要な行動を洗い出すというのは、ODSCを達成する上でどんな行動が必要なのかを検討し、順序立てて整理することだ。必要な行動が分かれば、不要な行動も分かるようになる。また、タスク忘れによる突発業務の防止にも繋がる。どうしてもタスクがばらせない場合は「ODSCを達成する上で難しいことや分からないことは何か」を考えるとよい。このようにして出た難しさや分からないことに対して、どうすれば乗り越えられるか、明確にできるか、といった作業が必要なタスクになる。

 

 ③タスクを俯瞰しやすくするために、よくタスクボードが用いられる。小型のホワイトボードや模造紙などで自分専用のタスクボードを用意してほしい。タスクボードと同様、ボード上部にTo Do(未着手のタスク)、Doing(仕掛り中のタスク)、Done(完了したタスク)を書き出す。準備が出来たら、②のステップで書き出したタスクを、未着手であればTo Doへ仕掛り中であればDoingへ完了したらDoneに貼り出す。これを日々の業務で使い続けていこう。これを使うことであなたの仕事全体がどんな状況になっているか分かる。期日に比べ付箋の枚数が多いのであれば、仕事量が多すぎることになる。早めにリーダや同僚に相談すべきだ。
 残業を減らすためにはいくつか工夫を入れたい。まずは「付箋に書き出すタスクを2時間単位に揃える」こと。必要に応じて、複数業務をまとめたり、逆に一つの行動を複数に分けたり。時間を揃えることで、一日の業務時間は8時間であるから午前に1コマ、午後に2コマなどと割り当てやすくなる。
 また、付箋を2時間単位に揃えるにあたり、合わせて取り組みたいのが、「一日の付箋を3枚までにする」こと。つまり、6時間で業務を終わらせるように計画することで、急な突発業務にも対応できる余裕が生まれる。

 ④見通しと対処すべき問題を毎日報告するには、毎朝のデイリースクラムなどを活用するとよい。タスクボードの前で、各メンバーがタスクの進捗の見通しと、タスクを終えるために対処が必要な問題を挙げる。なお、あくまで全体の進捗確認と、問題の検知だけを目的にすべきだ。個々に挙がった問題の原因分析などに時間をかけると、問題に直結しないメンバーの時間を奪うことになる。また、報告事項だけでなく、それぞれのタスクボードをしっかりと観察したい。「Aさんに難しいタスクが集中している」「Bさんの仕掛り中のタスクが増えてきている」といった気になる点があれば、助け合いの気持ちを込めて率直にあげよう。

 

今回は、時間管理術に注目したが、 複雑なニーズや短いスケジュール、切りつめられたIT投資予算の中で、仕事を終わらせるには工夫が求められる。自分に余裕があるときは、アフター5の楽しみだけを考えるのではなく、ぜひチームで困っている人に助け船を出してほしい。

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