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アナリティクス閑話 ~バイモーダルITと情報システム世代の働き方~

ガートナーが提唱する「バイモーダルIT」、日本では「攻めのIT・守りのIT」。情報システムを目的の異なる2 つのモードに大別し、それぞれに適したやり方で構築・運用するアプローチが説かれています。今回は、これらの2 つの流儀とその背景となるデジタルビジネス、先進的なワークスタイルを実現しているケースから、企業の情報システムのこれからの働き方を考えたいと思います。

ヒサ子 vs Google

御年73歳の義母 ヒサ子とGoogleの自動運転のニュースを見ていたときの事です。

そういえば、義母は若いころ運転免許を持たず、自宅と経営していたお店を毎日タクシーで往復していました。当時、「えらく贅沢な通勤ですね」と嫌味を言うと、「自動車買うのだって、維持するのも、走らせるのもお金はかかるし、事故なんか起こしたら大変。こうやってお歳暮もいただけるし、呼べばお店にも来てくれるからね」それはそれで「なるほど」と思ったのを覚えています。

移動手段として考えれば、今でもタクシーという手段もあるし、50代で免許をとった義母にとっては、運転は一つのレクリエーション。それ以上に、鉄腕アトムのおかげで世界では珍しくロボットに対してポジティブな日本国民でも、どうも人工知能的なことは、いろいろな意味でまだ信用できないというのが本音のようです

片や、高校生の我が娘は、家族と、広く浅い友達以外にはLINEをあまり使わなくなりました。

SNOWで(顔を)盛って、インスタに乗せるか、ミクチャで動画化して投稿、本当のプライベートはSNAPCHAT。なぜなら、ここには親は出てこないからです。

何かが大きく変わるときには、必ず新旧のデバイド(格差)が存在します。企業の情報システムもそうかもしれません。「情報システムの経営から求められる役割が変わってきている」、世代間での本音は違いますが、現実としては新しいコトがいろいろと起きています。

 

今更聞けないデジタルビジネス

デジタルビジネスというと「デジタルをビジネスにする」と捉えがちですが、今はまだ「デジタルでビジネスをする」と言った方が正しいかもしれません。

私たちのイメージとして、デジタルの境目がどこにあるのかが曖昧で、楽天市場をデジタルビジネスというと何か違うという気もしますが、例えば、世界最大のホテルチェーンであるマリオットが取り組んでいるデジタル変革は皆さんにはどう映るでしょう。(図1参照)

今となっては、それほど驚くべき技術でもありませんが、マリオットがすごいのは、Airbnbなどの出現でマーケットが変わっていることを認識し、戦略を追加して組織を変え、手段として図1のような施策を行っているということです。

これらの施策のターゲットを、将来マリオットの顧客になるであろう現役よりも若い世代を “Experience Seeker” (快適性だけでなく、体験を優先する)と定義し、セールス・マーケティング・E-Commerce・コールセンター・ブランドマネジメント・ITすべてを1つの組織下に置く顧客セントリックな組織を作り運営しています。

ただし、すべてのビジネスの方向転換をしたわけではなく、マリオットとしてのアコモデーションやホスピタリティは更なる品質・生産性向上を目指して運営されています。ビジネス自体は相変わらずホテル業なのです。

2つのモードとワークスタイル

マリオットのケースは、現代の情報システムに1つの示唆を与えてくれます。

従来、情報システムは、企業内の業務にコンピュータを用いて省力化・自動化してきました。直接の恩恵を得る利用者は業務担当者であり、ITは「業務担当者の道具」でした。これが業務全般に行きわたると、そこに集まる情報を用いて、現場を含む各階層の意思決定を支援するためのもの、すなわち、「経営のための道具」になります。デジタルビジネスの時代には、顧客(ビジネス)と業務にITを用いて直結し、更なるビジネス拡大を図るための「ビジネスの道具」になります。(図2参照)

重要なのは、それぞれの位置づけや道具がなくなったわけではなく、新たな役割が追加されていることです。

ガートナーは、情報システムのこれからの役割をモード1 、モード2の2つのITに分けた「バイモーダルIT」を提唱しています。日本的に言えば、モード1が「守りのIT」、モード2が「攻めのIT」というところでしょうか。

「定義的に言えば、モード1はニーズを受けて開発する予測可能なアプリケーションを、モード2はパートナーと協力して可能性を探る探求的なアプリケーションを指します。」(John Enck , Management Vice-president Gartner Research )

モード2が、前述の「ビジネスの道具」であるならば、その前提となる顧客密着型ITは、その要件が頻繁に変わります。環境や要件の変化に迅速・柔軟に対応するためにアジャイル開発が実践されています。先日、このアジャイル開発を得意とし、「納品のない開発」という本を執筆されたソニックガーデンの倉貫社長に当社で講演いただきました。

ソニックガーデンは主にデジタルビジネスを行っている企業に対し、「納品のない開発」を行っている会社で、非常にユニークなワークスタイルをとっています。なんと、社長を含めて社員全員が全国各地でリモートワークを行っているのです。全員リモートワークというと、どうもフリーランスの集まり、というイメージですが、実態は全く異なり、「単に働く場所が違うだけ」で、皆が同じ時間に、お互いの顔を見ながら働く、そのための仕組みが非常にうまく設計されています。

もう一つ興味をひいたのが、プロジェクトチームは、私たちがよくやるような、能力(レベル)の違う技術者をミックスした役割徒弟制度ではなく、同じ能力レベルの人間がチームを組むということです。先輩が後輩を指導するのではなく、仲間同士で助け合う、人事・評価という面では管理者はおらず、評価もしない。

まさにスクラムとはこういうことなのかと深く考えさせられました。 このチームワークの重要さは、世の中のベンチャー企業の経営者が口を揃えて言っていることであると、この時に思い出しました。

ワークスタイルと生産性の関係

当社でも製品開発分野で一部リモートワークを試験運用しており、生産性が上がったという報告を受けています。

「生産性=成果/コスト」と定義し、スクラム開発のスプリントタスクの処理量(成果)を通常勤務とリモートワークで比較すると、同じタスク量をこなすのに、リモートワークの方が短い期間で行えるという結果が出ています。今はその要因は何なのかを検証しています。

生産性の評価については、本来は分子(成果)を上げることが目的ですが、その前に分母(コスト)をどれだけ小さくしたかで生産性を測っています。ここで分子をそのままにしておくと、いずれコストは元に戻ります。1日でできる仕事に3日与えると、更に良いものを作るために残り2日間を一生懸命働くか、2日間働いたフリをするかのどちらかは、管理者の方ならご経験済でしょう。

企業側の視点からみれば、生産性が上がった後に残ったコストで成果の「おかわり」を設定できるかどうか、しかも自らできるか、に働き方を変える意味が出てきます。そのためには、制度よりも、自主的に「成果を求める」規範や文化が重要になります。

ソニックガーデンでは、体制を維持するため、仕事に応じて体制を調達するということはやらないそうです。良い人がいれば長い時間をかけて採用する。リモートワーク前提の場合は場所や条件に縛られず優秀な人材の採用もできる、という大きな利点もあります。やはりキーは、ヒトであり、その規範なのです。

新しいコトをやるため

バイモーダルITによって2つのモードが必要とされる情報システム。これまでは、ある仕事を企業内で行うか、外部調達するかは、コア・ノンコアで区別されてきました。カップラーメンを麺とスープと容器に分け、自社のコアとなるスープのレシピのみを残して、麺と容器は外部委託するように、業務を細分化する形で切り出してきました。これも、既に20年前の話です。

ビジネスの不確実性や複雑性が増すと、取引費用の負担が増えます。この場合、そのような業務は社内に取り込んだ方が単純にコストは安くなります。

デジタルビジネスを支えるITは企業にとってコアであり、自由奔放な顧客・マーケットに直結するITは、これまでのバックオフィスの比ではないスピードと複雑性が混在します。これに対応するには、少なくともその取引コストが下がるまでは、自社で考え、実行するしかないのです。

前述のとおり、新しい事に取り組み成果を上げるには、従来とは異なる文化・規範にしていく必要があり、それは並大抵のことではありません。そのためには、それに携わる人達のワークスタイルを変えるのが1つの方法だと私たちは考えます。

答えはありませんが、今のやり方を変えるのではなく、今とは別に新しい組織を作り、それをどんどん広げていくのが「近道ではないか」とも考えます。

当社では、IT人材育成のためのコンサルティングだけでなく、技術変革・ワークスタイル変革のためのコミュニティや勉強会があります。私たちの挑戦も随時発信していきたいと思っています。

今更聞けないデジタルビジネス

執行役員
新ビジネス本部 データアナリティクスグループ長
野村 剛一

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